仕事を終えた別府の夜。
今日も楽しみにしていた一人飲み。

訪れたのは、居酒屋「美乃里」。
美味しい料理とお酒を楽しみながら、一日の疲れを癒やす。そんな何気ない時間が、私にとっては大切なひとときだ。
しかし、この日はいつもと少し違った。
カウンターで隣り合わせた一人の男性との出会いが、忘れられない夜にしてくれた。
取りあえず「生」

今日は気温も高く暑かった。
仕事は外での業務だったのでよく汗をかきました。
スポンジのように体が生ビールを吸収していきます。
「くぅ~っ!うまい」たまりませんな~笑
北海道からやって来た一人旅のおじ様

2杯目は大分名物琉球とハイボール。
30分位たった頃、隣の席に60代半ばと思われる男性が来店。
お話をしてみると、北海道から一人旅で九州に来られているとのこと。
47都道府県を訪問済だとのことでした。
実は私にも、生涯で達成したい夢がある。
「生涯元気な内に日本全国47都道府県をすべて訪れてみたい」
そんな私にとって、目の前のおじ様は夢を実現した大先輩ではないか。
何とも羨ましい。
聞けば、全国各地の「一宮(いちのみや)」と呼ばれる神社を巡っていたそうだ。

一宮(いちのみや)とは、昔の国ごとに最も格式が高いとされた神社のことらしい。
九州でいえば、大分県の宇佐神宮や福岡県の筥崎宮、熊本県の阿蘇神社などがそれに当たる。
恥ずかしながら、私は全国の一宮を巡るという旅の楽しみ方を知らなかった。
全国各地の神社を訪ね、その土地の歴史や文化に触れる。
しかも、それを通じて47都道府県をすべて訪れたというのだから、何とも羨ましい。
しかも50代半ばで達成したとのこと。
ただ観光地を巡るだけではない。旅にもいろいろな目的があるものだ。
北海道のおじ様との出会いで、私の人生でやりたいことが、また一つ増えたような気がした。
「北海道の魚は美味しくないよ!」まさかの一言
会話は食の話に。北海道と聞けば、真っ先に思い浮かぶのが海鮮料理。
カニ、イクラ、ウニ、ホタテ、サーモン……。
私の中では、北海道は間違いなく海鮮天国である。
私:「北海道と言えば海鮮天国じゃないですか。毎日、美味しい魚を食べているんでしょう?」
すると、おじ様から意外すぎる答えが返ってきた。
おじ様:「 北海道の魚は九州にはかなわないよ!」
えっ!? 思わず耳を疑った。
おじ様は、目の前の刺身を指さしながら話を続ける。
おじ様:「わたしが今食べているカンパチ。こんなコリコリした新鮮な刺身は北海道にはないよ!」
私:「でも、釧路のお寿司なんて有名じゃないですか!」
すると、おじ様は笑いながら、
おじ様:「あんなの全部、内地から取り寄せたものだよ! 北海道は鮭、イクラ、カニ、ホタテ。それでおしまい!(笑)」
なかなか豪快なおじ様だ。
もちろん、北海道にも美味しい魚はたくさんあるはずだ。
しかし、おじ様が言いたかったのは、九州で食べる魚の種類の豊富さと、刺身の鮮度や歯ごたえの素晴らしさなのだろう。
「カンパチ、太刀魚、クエ、サバ、アジ、鯛、イカ……。九州の魚の新鮮さにはかなわないよ!」
北海道から来た人に、これほど九州の魚を褒めてもらえるとは。
何だか嬉しくなった。
それにしても、北海道の海鮮に憧れている私と、九州の魚に感動している北海道のおじ様。
何とも面白いものである。
私はここでハイボールと1品を追加

おじ様:「ところで、あなたが食べているのは何?」
私:「鯛のあら炊きですよ」
すると、すかさず、
おじ様:「大将! 私もあら炊き一つ!」
何とも気持ちの良い注文である。
しばらくして、おじ様の前にも鯛のあら炊きが運ばれてきた。
冷酒を片手に、美味しそうに頬張るおじ様。
その表情は、実にご満悦であった。
北の大地から九州にやって来て、地元の魚を味わい、隣に座った見知らぬ男と会話を楽しむ。
旅の醍醐味とは、こういうことなのかもしれない。
徳島から北海道へ。開拓4世のお話
会話は、おじ様のご家族の歴史にも広がった。
北海道生まれの北海道育ちかと思っていたが、ご先祖のルーツは徳島県にあるという。
昔、ご先祖が海を渡り、北海道の開拓に携わったそうだ。
「曾祖父さん、爺さん、親父、そして私。だから私は開拓4世なんだよ」
そんなお話だった。
明治時代、多くの人々が新しい生活を求めて本州や四国、九州から北海道へ渡った。
今のように交通も便利ではない時代。
厳しい寒さの中、見知らぬ土地で生活を切り開いていく。
きっと、想像もできない苦労があったのだろう。
そんなご先祖の歴史を、何気ない居酒屋のカウンターで聞かせてもらう。
旅好きのおじ様の人生には、北海道の歴史も重なっている。
「また来年の今日、ここで会いましょう」
気がつけば、1時間ほど話し込んでいた。
初めてお会いした方なのに、会話が途切れることもなく、実に楽しい時間だった。
そろそろ帰る時間。先に席を立つことにした。
私:「それでは、お先に帰ります。また御縁があればいいですね」
すると、おじ様は笑顔でこう言った。
おじ様:「楽しい会話をありがとう。また来年の今日、ここで会いましょう!」
えっ、来年の今日? 見知らぬおじ様と?
予想もしなかった言葉に、少し戸惑ってしまった。
すると、おじ様は私の表情を察したのか、笑いながら続けた。
おじ様:「できなくてもいいじゃないですか。御縁があればですよ!」
何とも素敵な言葉である。
私:「そうですね。楽しみです!」
最後はお互い笑顔でお別れした。
一期一会。だから一人飲みはやめられない
店を出た後も、おじ様の最後の言葉が頭に残っていた。
「また来年の今日、ここで会いましょう」
もちろん、本当に再会できるかどうかなんて分からない。
お互いの名前も連絡先も知らない。
それでもいいのだ。
もし、来年の同じ日に同じ店で偶然再会できたら、それは何とも愉快な出来事だろう。
再会できなくても、今日こうして出会い、楽しい時間を共有できた。
それだけで十分ではないか。
考えてみれば、一人飲みには不思議な魅力がある。
誰かと約束して飲みに行くわけでもない。
誰と会うかも分からない。
静かに一人で飲む夜もあれば、今日のように思いがけない出会いに恵まれる夜もある。
全国47都道府県を訪れた旅人。
徳島にルーツを持つ北海道の開拓4世。
九州の魚を絶賛し、鯛のあら炊きを美味しそうに食べていたおじ様。
そして、最後に残してくれた粋な一言。
「できなくてもいいじゃないですか。御縁があればですよ」
人生、何もかも予定どおりにいかなくてもいい。
約束を交わさなくても、また会える人には会えるのかもしれない。
そんな人生の楽しみ方を、少し教えてもらったような気がする。
私もいつか47都道府県を巡り、旅先の居酒屋で、こんなふうに気持ちの良い会話ができる人になりたい。
別府の夜。美味しい料理とお酒、そして素敵な旅人との出会い。
また一つ、忘れられない一人飲みの思い出が増えた。
来年の今日、あのカウンターで。

